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碌々産業株式会社<GNT100(グローバルニッチトップ100)インタビュー>

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宇宙航空部品や半導体、そして身近なスマートフォンといった世界のあらゆる電子機器などの精密な加工が求められる微細加工の分野において、キサゲ加工という特有の技術を持ってグローバルトップに立つ“碌々産業”。その技術や新たな開発、そして創業118年も会社を続ける秘訣に迫るべく、碌々産業株式会社 代表取締役 海藤 満 様に取材させていただきました。

微細加工機のリーディングカンパニーへ

碌々産業株式会社は1903年創業、従業員数は160名を超え、スマートフォンや宇宙航空部品、半導体、時計、医療機器など精密で最先端な加工を可能とする工作機械メーカーとして、微細加工機の国内市場トップシェアを誇ります。また、国内だけでなく、アジア地域やアメリカなど海外4か所にサービス拠点を設けるなどグローバル展開もしています。さらに、トップシェアを取るだけでなく、斬新な微細加工機や微細加工技術を提案し微細加工機のリーディングカンパニーを目指しています。2020年には、経済産業省が認定するグローバルニッチトップ企業100選に選出されました。

マイクロメートルレベルの加工を可能とする技術―“キサゲ加工”―

キサゲ加工の特徴

キサゲ加工とは弊社の微細加工機の金属部分の接合部に施されている特殊な加工技術です。微細加工機の構成要素の締結部では、経年変化による姿勢変形を避けるため平面が平らな金属同士を内部応力が均一となる状態で固定させる必要があります。また、摺動面とする場合は平面度(金属の表面の滑らかさを表す尺度)が高すぎる金属同士を接着させると、2つの面の間に潤滑油が入らず、互いに固着してしまうことがあります。この状態を防ぐために、金属の表面の1インチ(25.4mm)四方の中に25個くらいの点を作ることで、その点の中に潤滑油が入り滑らかな動きを実現することができます。こうした加工技術がキサゲ加工です。

キサゲ加工のパラドックス

微細加工機を安定して高精度に維持させるうえで、キサゲ加工は欠かせません。しかしながら現在、キサゲ加工を機械で行うことは難しく、すべて熟練職人の手作業によるものです。これは一種のパラドックスのように思えます。さらに熟練職人の育成には5年~10年かかります。大量生産が難しく、育成にも時間がかかるなど、一見問題のように見えますが、ここに碌々産業の強みがあります。経験や勘に基づく言葉にされない職人の暗黙知こそが、他の企業との差別化を図る武器です。他の企業にはできないキサゲ加工を大事にしていく、これこそが碌々産業が微細加工分野でトップに立ち続ける所以です。

加工条件の変化を「見える化」できるように

AI Machine Dr. (AIマシンドクター)の開発

ミクロン、ナノメートルの高品位加工を可能とする微細加工機は、室温1℃の変化でも金属が伸び縮してしまい加工精度に大きな影響が出てしまいます。このため微細加工機の設置環境には厳しい基準を設けてきました。
しかし、スマホの小型化をはじめイノベーションが進み、要求される加工精度が上がるにつれ、お客様の設置環境に気を配ることに限界が生じました。また、お客様の手元にある微細加工機の状態が正しく保たれているかについても確認する必要性も同時に感じていました。そこで、CCT(株式会社コアコンセプト・テクノロジー)と協業で開発したクラウドサービスがAI Machine Dr.です。AI Machine Dr.は微細加工機の機体情報を10ミリ秒の間隔でモニタリングし、モニタリングしたデータをクラウドで蓄積してAIで診断する仕組みです。この開発により遠隔から納入先の微細加工機の情報を正確に把握することができるようになりました。こうして、微細加工機の設置条件や加工条件のコンサルティングまで可能となり、従来の「もの」づくりから「こと」づくりへと付加価値を高めることに成功いたしました。

他社との協業に踏み切った理由とは?

弊社にIT の知見がないことから、IT の専門企業とアライアンスを組むことで製品化までのスピード感を持つことができました。また、オープンテクノロジーで開発することによって市場全体の底上げを図り、プラットフォームを作ることによって誰でも参加できるようにするのです。そうすると、そこに付加価値が生まれるのです。誰かを倒して自分たちだけが利益を得るわけではなく、マーケットを大きくし産業全体を盛り上げることが重要なのです。

“Machining Artist”がもたらす恩恵

IT 化が進む中、経験や勘だけでなく、それを数値化し加工技術に落とし込める能力も問われる時代になってきています。特に、微細加工分野はオペレーターの感性が重要になってきますが、その加工技術をデータ化し再現できることが重要になります。そういった自らの感性を分析しデータ化することのできる人を弊社では“Machining Artist”と呼び、業界への普及活動をしています。また、微細加工を追求でき、それをデータ化しさらに人に教えることにも躊躇いがない人、それらの条件を満たしている人を“Expert Machining Artist”“と認定しています。こうしたMachining Artistを育成することによって技術の継承と微細加工市場の拡大を行っていこうと考えています。

創業118年―会社を長く続ける秘訣とは

創業以来貫いてきた精神

工作機械を作ることが目的ではなく、お客様の利益を優先することが創業以来の理念となっています。工作機械はあくまでお客様が困っていることを解決するための手段に過ぎません。また、会社は“公共の器”だと考えています。世の中に困っている人がいて、それを解決するために企業があります。社会貢献をし、そして従業員の生活を守ること。そういった条件を満たすような、社会から必要とされるような会社は潰れません。世の中の人が何に困っているのかを考え、それに対する解決策、イノベーションを考える。最終的にそれを具現化することによって必然的にお客様から喜ばれます。売るのではなく、お客様に要求されることを主眼とし経営をするのです。これが100年以上も会社を長く続ける秘訣です。

200年企業を目指して

弊社は微細加工機のリーディングカンパニーを目指して、またビジョナリーカンパニーとして200年企業を目指します。これから先、企業を継続していくためには、特定の個々人に頼るのではなく、企業経営の文化を社内全体に継承していく必要があります。自分本位な経営ではなく、公共の器として、相手の困っていることを解決する、それを徹底して継続することでこれから先100年を生き残っていく企業になりたいと考えています。

微細加工機が今後の日本に与える影響

微細加工の分野は今後日本の競争分野のメインになると考えています。現在、スマートフォンなどの電子デバイス部品の80%が日本製となっています。モノづくりは進化すると、モジュール化したものを集めて製品化する傾向にあり、完成した製品だけが見られがちですが、モジュール一個一個を見るととても繊細で、それらは日本の技術が欠かせません。小さくて軽い、そして密度の高い製品を可能にするのが微細加工なのです。

職人の技術とイノベーション<GNT100インタビューのおわりに

キサゲ加工を始めとする職人の技術と、AIを始めとする最先端の技術を掛け合わせた碌々産業様の取り組みは今後の日本の発展に寄与する可能性を感じました。 また、GNT100に関するインタビューの枠を超えて、海藤様の経営に関する考え方をご教示いただきました。
本記事をお読みになっていただきました皆様も、身近に使っているスマートフォンなどの電子機器に日本の技術が集約されていることへの誇りを持っていただけたのではないのでしょうか

インタビュアー:東京大学 広告研究会
記事作成:東京大学 広告研究会


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