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日本の宝を守る、地理的表示保護制度<GIインタビュー>

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「GI」と言われてピンとくる方は少ないと思います。正式には、地理的表示(GI)保護制度というもので、特定の産地と結びつきがあり一定の品質等を有するものの名称を知的財産として保護する制度です。確かに、知的財産を保護するための制度ですが、詳しくお話を聞くと、様々な取り組みがなされていました。

今回は、

農林水産省 輸出・国際局
知的財産課長 福井 逸人 様

に取材させていただきました。

地理的表示保護制度とは

地理的表示(GI)保護制度は、日本各地の地域の風土や伝統に基づいた色々な優れた食品や農林水産物を、地域の財産として守っていくことをお手伝いする仕組みです。
具体的には、地理的表示という言葉はあまり聞き慣れがないかもしれませんが、「その地域でしかこういう美味しいものが育たない。」とか、あるいは「この地域で育った人々の特殊な技でしか作ることが出来ない。」といったようなものが沢山あります。こういうもので、例えば地域の名前と特産品がくっついた形で呼ばれる物って結構あると思いますが、その名称を国が知的財産として守っていこうという仕組みになっています。

GI登録を受けることのメリットや効果

模造品の排除

例えば、夕張メロンや神戸ビーフなど、色々な事例がありますが、ともすれば、このような美味しいものや優れたものは真似をされたり模造品が沢山あったりします。ですが、このGI制度に登録していただければ、GI制度は「その名称はその地域で、また、その基準を守る人しか作れない。」というルールですので、まがい物を国が責任をもって排除していくことができます。ですから、模造品を排除することができるというところがひとつ大きなメリットです。

消費者の安心と好循環

GI制度は、決めた規格を満たしたものしかGI登録産品として名前が付けられないという厳しいルールですから、同じ地域で同じように果物・野菜を作っていてもちゃんと約束された作り方で生産されたものでなければ、GIのマークを貼ることが出来ません。
例えば、加工品であれば「2年間かけて作る。」というルールを作られたときに、手軽に半年で作るようなものがあったとしても、それはGI登録された名称を使うことが出来ません。したがって、「このGIで登録された名前を使っているものは、一定の品質はちゃんと守られたものだ。」と、安心していただけます。
このことは、もちろん買っていただく消費者の方にもすごくメリットがあると思いますし、生産されている方にとっても、GI登録を受けた以上はいいものを作る、という品質を向上するような意識にもつながります。
私が色々聞いているところですと、GI登録を契機にして品質もさらに良くなったとか、お客様のために一生懸命作るようになったとか、またそれによってお客様が安心して買っていただけるというように、すごくいい循環を生み出しているというところが一番のメリットかなというふうに思います。
GI登録産品を皆様に評価していただき、ブランド力が上がっていくというところもあります。さらに言えば、その地域でなかなか後継者がいなかったところから、GI登録をきっかけにして新しい若い人が生産を始めるようになったということもあります。また、元々地域の中であまり知られていないような品目もありますので、地域の宝物を見つけるというか、道の駅でその商品を売り出したら非常によく売れた、さらには近所の加工食品メーカーさんが着目してくれて地元で新しい商品を作って、それがまた繫盛して地域の活性化につながっていくというふうなこともあります。
私がGI制度は面白いと思うところは、GIはどなたかの会社のものとかそういう権利ではありません。地域のみんなで使っていくことで、どんどん地域に幸せが広がっていくような、その辺がこの制度の良いところなのかなと思っています。

海外に対しても品質の保証

GI制度は国内だけでなく世界で認められている制度です。また、海外にも色々なGI製品があります。皆さんが日頃見られるような、例えばイタリアのゴルゴンゾーラというチーズだったりパルマ・ハムと呼ばれるハムだったり、こういうものも実はEUでGI登録をされています。日本でGI登録を受けられるということは、「これらに匹敵するくらい世界にちゃんと誇れるものである。」と国からのお墨付きを受けているということです。
これから日本の産品を海外に売っていきたいという人たちにとっても、この仕組みを使ってもらうと、世界から「これは国が日本の伝統な良いものだとちゃんと登録したものなんだな。」と思っていただけるので、是非使っていただきたい仕組みだと思っています。

海外での保護について

日本とEU、イギリスとの間では特別な約束ごとをしております。GI制度は、それぞれの国で登録するという仕組みなものですから、本来であれば、日本の産品もEUにお願いしてひとつひとつ登録をしてもらうという手続きが必要です。しかし、今回は相互保護という取り組みを取り入れました。つまり、日本でGI登録をしてもらえれば、それを日本とEUの政府同士で話し合って、それを相手国でも守ってもらうことが可能になりました。
日本の地域の加工食品の方々や農家さんがEUに対してGI登録をするというのは現実的にはなかなか難しいと思います。しかし、この仕組みを使えば、日本国内でGI登録してもらえればEUでもGI登録産品として認められ、ヨーロッパでもこれがいいものだと評価されます。あるいは、日本のGI登録産品の偽物が出たときには排除してもらうことができます。なかなかこういう仕組みは他に無いと思うので、こういった点もメリットとして感じてもらえればと思います。
海外について言うと、先ほど申し上げたEUとの間で相互に監視するという仕組みが始まっていますので、今後海外に輸出されるときにはすごく効果があると思います。さらに、GIに登録していただいた品目については、EU以外の国でもインターネットで偽物がないかとか調べるようなお手伝いも国の事業でしております。

海外からの評価

GI団体の方からお聞きするのは、地域によってですが、GIが付いていると海外のバイヤーさんが凄く安心するというのは聞いています。消費者の皆様にGI制度がどこまで通じているかは国によって異なっていますが、少なくとも流通のプロのような方には評価いただいているのかなと思っています。 

GI登録を受けられた方々の声

「GIを取ったからいきなり物が売れるようになると思っていたけど、そこまでではなかった。」とまずはおっしゃる方もおります。しかし、色々な方にお話を聞いてみると、「本当に販売量が増えた。」とおっしゃる方もいますし、そうでない場合でも、GI登録をきっかけに地域の新聞や報道で取り扱われるようになり地域の皆さんに価値を知ってもらったとおっしゃる方もいます。
今はまだ経済的なメリットに直ちには結びついていないが、地域の宝物を自分たちが守っていると自負できるようになったという声もあり、また、GI登録産品を使って新しい商品や地域の特産などがどんどんできているようなところがあります。皆さんからは、「手間が面倒くさいな。」とは言われますが、おしなべて「GIを取ってよかった。」と言っていただけているかなと受け止めています。

商標との違い

商標も産品の保護に活用できる制度だと思います。しかし、地域の農産物を作ってらっしゃる方々が仮に商標登録できたとしても、権利の侵害から自分たちで守っていくというのもそれはそれでハードルが高いと思います。特に海外となると、知識的にも金銭的にも大変な面があるのかなと思います。そういう点で、GIというのは行政が取り締まりをしていくということと、必要に応じて政府として他国にも働きかけていくという、その辺が商標との大きな違いなのかなと思います。

今後のご展望について

加工食品の追加

GI登録産品は品目でいうと100品目を少し超えたところなのですが、かなりの部分が農林水産品と言われる一次産品です。各地にその地域にしかないような果物とか、本当に面白いものが沢山あり、それをまず登録してきました。しかし一方で、取り組みが少し遅れたなと思っているのが、加工食品の世界です。

日本は北から南まで気候も地形も違うので、それぞれの地域の自然条件に合わせて色々な工夫をして加工食品が作られてきています。例えば、漬物ひとつにしても塩で漬けるところもあれば、塩が少ないところでは「すんき」のように塩を使わないで乳酸菌で保存したり、「いぶりがっこ」は外が寒くて風に晒せない分囲炉裏で燻製にしたりとか、こういう地域の先人の知恵が詰まった加工食品が日本中にまだいっぱいあると思います。なので、こういうものを日本の宝物としてGIにもっと申請してもらえるように、お声掛けしていきたいな思っているところです。

団体としてPR活動

GI登録産品のひとつひとつはすごく魅力的で興味深いものなのですが、お客様の方から見ると何かひとつの品目ではお取り扱いにくい面もあると思っています。

そこで、この100ちょっとのGI団体様がみんなで一緒になってPRをしたり販売したりすることで、スーパーも売り場を確保しやすくなるというようなこともあると思いますので、出来ればGI団体の皆さんとみんな一緒になって販売に取り組んでいきたいと思っています。

海外との連携

EUではGI産品の市場価値が高いという調査結果を聞いているので、せっかくEUと相互保護をしたこの機会に日本のGI産品もしっかりご紹介していきたいというのは強く思っています。コロナの影響でなかなか実際の動きができていないのですが、例えばEU内の食品を展示するような場所に日本のGIとしてまとめてPRに行けないかとか、あるいはEU側の日本に売りたいGIの人達と力を合わせてお互いに販売できないかとか、そういう連携をしていきたいと思っています。

登録されている品目を見ると、消費者の方が「あーあれね。」と分かるような非常に有名なブランド品もありますが、一方で、その地域でも登録されるまであまり知られていなかった品目も結構あります。日本の食文化を見ていると、気候に応じた多様な食文化が存在し、このことが日本の強みだと思っています。

海外からも、一時期和食がユネスコ登録されて話題になりましたが、各地に埋もれている食文化に非常に関心が高まっているとお聞きしています。GIという取り組みをきっかけにして、埋もれて途絶えていくような食文化を守れるツールにもなるのかな、と思っています。なので、農林水産物や食品をしっかり生産し、売りたい生産者の方には勿論なのですが、地域で昔から受け継いできた大事な財産をどうやって守ろうかと考えていらっしゃる地域の関係者の方たちにも是非このGI制度を知ってもらって、活用してもらいたいと思っています。

最後にメッセージ

地理的表示情報発信サイト(https://gi-act.maff.go.jp/)

GI登録をお考えの団体様へ

GI制度は良い仕組みだなと思っています。勿論、どんな産品でもGIを取れるというものではないので、色々な手続きもありますが、農水省としましては日本中にある色々な価値のあるものをGIという制度で発掘したり脚光を浴びてもらったり、ということをやっていきたいと思っています。少しでも関心があれば、一度お問い合わせいただければありがたいと思っています。
是非、皆さんの地域で大事に守ってきた農林水産物や食品を、「これ実は地域の宝物じゃないかな」と見直していただいて、「GI登録を受けたいのですがどうしたらいいですか。」と気軽にご相談いただければと思っていますので、よろしくお願いします。

消費者様へ

GI登録産品には、原則としてGIマークを商品に付けさせていただいております。是非マークを見かけられたら商品を手に取って、買って、使って応援をしてもらいたいと思います。このマークが付いているものは、一言で言えば、ちゃんと国が確認した基準を守って作られているものなので品質は間違いありません。皆さんがこのGIマークが付いている商品を手に取って買っていただくことで、各地の風土や伝統で守られてきた大事な文化・食品を助けていただくといったところもございます。GI登録産品は地域の宝物であり日本の宝物でもありますので、GIマークを見かけたら是非手に取って買っていただいて、その地域でどういうふうにして作られているのかな、みたいなことに思いを馳せていただければ嬉しいです。

>>GIインタビュー動画はこちら

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