大人気アニメ「ラブライブサンシャイン」とコラボしたことで話題となった「西浦みかん寿太郎」というみかんはご存知でしょうか。その魅力は、アニメとのコラボだけではありません。
希少で高価でありながらも、市場では圧倒的な支持を得ている西浦みかん寿太郎について、今回は西浦柑橘出荷部会 部会長様にお話をお聞きしました。
西浦みかん寿太郎の魅力
大玉みかんは大味というイメージを打破
青島温州を消費者のニーズにハマる一流レベルへ
みかんには秀・優・良とランクがありますが、西浦みかん寿太郎は、青島温州の一流レベルである「秀品」にあたるみかんが相対的に多いです。
そもそも、静岡県の主力品種である青島温州は、サイズが2L中心の大玉みかんなのですが、現在消費者の方には、小玉サイズ(S,2Sサイズ)の極早生・早生みかんの方が、味が濃くてしっかりしているというイメージが定着してしまっており、そのイメージを青島温州で打破しようと30年間頑張ってきました。
西浦みかん寿太郎は、貯蔵品種の中で唯一、この消費者のニーズに嵌るサイズ、すなわちSや2Sサイズが中心サイズです。
糖度が同じでもなぜ寿太郎がもっと美味しく感じるか
また、同じ糖度のみかんでもアミノ酸含有量が多いみかんほど旨味を感じるのですが、西浦みかん寿太郎はアミノ酸含有量が多いです。
30年前はこの点について皆さん反応しませんでしたが、西浦みかん寿太郎を買ってくださる方は無意識に旨味を感じてくれていて、「次もこのみかんを食べたい」、「味が美味しい」と言ってくださっているように思います。
高価でも圧倒的な支持を
西浦みかん寿太郎の強みは、皆様から頂く圧倒的な支持にあると思っています。
普通のみかんと比べるとかなり高値で販売しています。しかし、それでも皆さんは喜んで買ってくださいます。また、市場の仲買さんからの支持も圧倒的にあります。
反対に、弱点は量をたくさん生産できないところです。一生懸命苗木を植えていますが、反収が上がりません。この産地として一番改革しなければならないところだと思います。
ただ、お客様に喜んでいただいていることが、一番だと思います。
西浦みかん寿太郎の活用
人気の100%ストレートジュース
独自のストレート果汁でジュースもヒット
初めの頃は、皆様にはお届けできない半端なみかんを、ジュースや缶詰に加工して販売していたのですが、輸入の自由化に伴い、1キロあたり7円と極端な値付けとなってしまったため、「7円、8円で売るくらいなら畑に捨てた方が良い。」という話になった時に、それなら寿太郎だけを使ったストレート果汁のジュースを作ってみようとなりました。
当時の記録は残っておりませんが、寿太郎という字に「寿」という文字が入っていることから、おめでたい席、祝いの席、結婚式やパーティーなどで使用できるようなものを作ろうということで開発をされたのではないかという話も聞いています。「
本当においしいものを教えたい」という想いから、キッチンカーで西浦みかん寿太郎ジュースの販売をされていらっしゃる方もいます。酸味と甘みのバランスが非常に良く、100%ストレート果汁で西浦みかん寿太郎をジュースで楽しむことができます。
結果として寿太郎だけのストレート果汁ジュースは今でもヒット商品となっています。
寿太郎の酸味と甘みを活かしたワインとスパークリングワイン
2年の試行錯誤で生まれたスパークリングワイン
さらに、「寿」という文字がついているということで、結婚の引出物やお祝いの品になるようなものを試しに作ってみようということになりました。最初の2年間は上手くいきませんでしたが、製造元も次第に慣れてきてスパークリングワインなんかも作るようになりました。
しかし、農家の立場としますと、やっぱり段ボールに入れて売れてくれるのが一番ですね。
寿太郎プレミアムゴールド
寿太郎をハイクオリティにランクアップする貯蔵技術
ハイクオリティの寿太郎
西浦みかん寿太郎にはランクがあり、「寿太郎プレミアムゴールド」などハイクオリティなものもあります。このランクにいくためには冷風貯蔵、つまり冷蔵庫にいれておかなければなりません。
収穫した時期から大体6%~8%くらい水分を減らし、みかんがダメにならないように貯蔵する「予措」という技術があります。この貯蔵により、みかんの中にある酸度は下がりますが、逆に糖度は濃縮効果により食味が良くなります。
プレミアムな価値を実現する高度な技術
寿太郎プレミアムゴールドとなると、水分が大体10%くらい減ります。しかしみかんがしわしわにならないように10%減らすためには技術が必要となります。これが出来ると非常に美味しいみかんになりますが、その分手間も掛かります。なので、これが可能な施設を持った人しか行うことが出来ません。
西浦みかん寿太郎の成り立ち
わずか一軒の枝変わりから始まった西浦みかん寿太郎
山田寿太郎さんによる誕生秘話
西浦みかん寿太郎は山田 寿太郎さんが枝変わりを独自に探したところから始まりました。山田 寿太郎さんは、新渡戸 稲造さんが初代理事長を務めた興農学園という西浦の地区に戦前からある全寮制の農業高校に通っていました。そこで、農業学者の先生のもとで変異種、品種を選別するようなことを勉強されていました。そして、運良く山田 寿太郎さんが植えた青島から枝変わりが出たのが始まりです。そこから、昭和52年には西浦柑橘出荷組合(現在の西浦柑橘出荷部会)が設立され、昭和57年に同組合が品種を特産化することを決定し、各組合員に苗木1本を配付しました。わずか一軒の枝変わりから始まった西浦みかん寿太郎が、平成24年には第61回全国農業コンクール全国大会で「農林水産大臣賞」を受賞しました。
やがて「太郎」が美味しいみかんの代名詞と
最初は「寿太郎」ではなく苗字で種苗登録したいと仰っていたのですが、山田系という他のみかんが既にあり、登録できないと言われてしまいました。そこで「『寿』という文字も入っているし、寿太郎といういい名前があるのだから良いじゃないか。」と皆から言われて、本人は渋々でしたが「寿太郎」という名前が付きました。
市場へ行くと、ある時期から「〇〇太郎」というみかんが目に付くようになりました。それまでは「○○太郎」というみかんは見かけませんでしたが、そういう名前を見るようになったので「寿太郎」という名前が他にも影響を与えたというところはあると思います。
アニメとのコラボレーションによる反響
ラブライブサンシャインとのコラボレーション
きっかけは第一話に寿太郎が登場
テレビ放送の一話にて、西浦みかん寿太郎の箱がアニメ上で登場したことで、Twitter上で話題となりました。アニメの人気の高さや西浦みかん寿太郎が話題になっていることから、これをチャンスと捉えて何かできることはないか話し合いました。
そして、その年に「ラブライブサンシャインにかかる地域農業応援プロジェクト」というプロジェクトを立ち上げました。そのプロジェクトの会議の中で、アニメの絵柄が入った寿太郎みかんの出荷箱を作って販売するという企画が持ち上がり、検討を進めて実現に至りました。
想定外、10代20代から箱買いの大反響
この反響は凄かったです。みかんの消費者のボリュームゾーンは50代60代で、10代20代の消費者の方は殆どいません。なので、これから買ってくれる可能性のある方たちにみかんの良さを伝えられるというインパクトが非常にありました。各市場でも、普段電話がかかってこないような若い方から「寿太郎の段ボールはありますか。」と電話がかかってきて、びっくりしていました。普段そんな電話かかってくることないので、かなりの反響があったのだと実感しました。
コラボで10倍の売り上げ効果
最初の3年くらいは、俗に言う聖地巡礼ってやつで、地元に沢山の若い人が来てくれました。それだけでも流通経路にインパクトを与えました。また、JAのネットショッピングでは、毎年100箱程度だった販売が、その年は10倍の1000箱以上の販売を記録しています。また、Twitterでも11万5000件のアクセスがあったということを記録しています。
我々生産者の方は年齢がかなり上の人間ですので、最初は正直ピンと来ませんでした。それだけ若い人たちを動かすということにインパクトがあったようで、「じゃあ、そこにあやかって乗ってみようか。」と思うようになりました。なので、費用対効果で言うと莫大なものだなと思っています。
GIについて
GIマーク
GI登録のきっかけ
GI登録を受けようとなったきっかけは、隣の三島市の「三島馬鈴薯」が早々にGI登録を受けました。そして、東部農林事務所の方から「是非、西浦みかん寿太郎でGI登録どうですか。」とお話をいただき、こちらで協議して登録をするという経緯に至りました。
GI登録するにあたり苦労された点
GI登録の話が出てから4年かかっての登録なので、色々と道のりは長かったです。一番困ったのは、同じ西浦の中でも出荷部会に加盟してない人たちもみかんを作っている方がいるということです。まず、線引きをどこでするか、という問題がありました。あまりにもエリアを広げすぎたら我々の特徴が出なくなってしまいます。
また、線引きをするのにはある程度の期間が必要であり、それから皆の了解も得なければなりませんでした。「そんなに大変なのであれば、わざわざGI登録がなくても売れるのだから良いではないか。」と、あまり必要性を感じていない方も多かったので、了解を得るということが大変でした。
後継者のためにGI登録
ただ、GIは国際認証じゃないですか。そういうことを考えると、やはり取れる時にちゃんとしておかないと、将来我々の後の世代の人間が困ることがあると嫌ですので、そういうことを考えると必要なのではないかと思います。
これからの課題
西浦柑橘出荷部会員の皆様
これからは、西浦みかん寿太郎の量を増やしていくということと、部会員の若返りを進めていくということが課題です。 現状を維持するのではなく、もっと積極的に出ていかなければなりません。縮小均衡で行くと何年か先で終わってしまいますので、少なくとも現状維持を最低ラインとしてもう少し頑張っていきたいと思います。